うっかり書きたくなってしまったので書く。
2026年1月、ANGELICA ASTERにドグ子実装
去る2026年1月22日のこと、私が愛してやまないサ終済みネットゲーム『キリンと聖女巨神と誓女』の精神的続編たる『ANGELICA ASTER』に新しいガチャキャラが追加された。レアリティは★6(最高レア)で、ジョブは玄人好みとも言える(=性能でガチャ回らなさそうな)ディフェンダー。コールサイン(ゲーム上の表示キャラ名)はエメスだが元々は土偶であったのが人の形を得たという設定もあり、本人の自称および関係性の深いキャラからの呼称はドグ子である。そして見た目はこのような感じ。

ドグ子出土!
肌色の多いキワドい見た目で、あらゆるSNSのセーフサーチに引っかかりそうだ。『ANGELICA ASTER』自体がR18のFANZA版も同時配信しているゲームであることもあり、どんな突発的衝動の到来にも備えられるようあらかじめズボンを脱いでプレイしていると言われるプレイヤー層に訴えかける官能的なデザインであることは良いことなのだろう。
だがこのドグ子のデザインをただの性消費されるだけの卑猥な造形として切り捨てるのは全くの誤りである。噛めば噛むほど香しい土の香りが口の中に広がってくる良デザインなのだ。ふぅ…
…さいわいさる理由によりこのドグ子のデザインを冷静に、学術的な部分も絡めて語れる賢者のようなテンションに至ったので、以下語ってみたいと思う。
ドグ子のデザインモチーフ、遮光器土偶について
ドグ子のデザインのモチーフとなっているのは、おそらく土偶という単語を聞いて誰もが真っ先に思い浮かべるであろう遮光器土偶である。

遮光器土偶(亀ヶ岡遺跡出土) 写真出典 Wikipedia
遮光器土偶の特徴は土偶が象る人物の目の部分の表現として楕円部の中心に細い一本線を彫っていることで、このデザインはイヌイットが雪中行動する際に光の反射の影響を少なくするために使うスリット型の道具(遮光器)を表しているんだ、と考えた坪井正五郎という自然学者により遮光器土偶と命名され、以降130年ほどこの名称が使われ続けている。

Geminiに生成させたイヌイットの遮光器。大体こんな感じ。
遮光器の原理については、雪の中など光が眩しい場所を歩く際に薄目にして歩いた方が歩きやすいよね!くらいで簡潔に済ませてしまおうと思うのだが、確かに遮光器土偶の出土地として代表的な青森県つがる市木造の亀ヶ岡遺跡のあたりが冬に積雪でニュースになっているのを見ると、このデザインが遮光器を模しているのだという連想にも無理はない(突っ込まれる前に書いておこうと思うが温暖化による海面上昇、いわゆる縄文海進があった縄文時代だが遮光器土器の製造時期である晩期の気候はほぼ現代と同様であると考えられている)。ただ肝心の遮光器自体が遺跡から出土していないことなどから、この特徴的な表現は単なる眼球の強調にすぎないという説が主流となり遮光器との関係は名称に残るのみとなってしまった。それにしても、こういった命名の経緯を知らないとこの種の土偶自体が遮光性能を持っているかのような怪しい印象を持ってしまう。亀ヶ岡遺跡の最寄駅で巨大な遮光器土偶を象った駅舎を持つJR木造駅をはじめとしてあらゆる創作的解釈における遮光器土偶が目からビームを出しがちなのも名称が持つ効果が大きいのだろう。ドグ子の攻撃手段も勿論ビームだ。
縄文土器に見られる破壊・再生のモチーフとANGELICA ASTER
特徴的な形状をした遮光器土偶だが、一体何のために作られ何を表現したものなのだろうか?「お前の存在意義は何だ?」である。これについてはなにしろ作られた時期が2800年も前である上に当時は文字のような記録手段も無かったことからどのような説を語ろうとも仮説や推測の域を出ない。しかしながら全国で発見された土偶が(上で画像を貼った亀ヶ岡遺跡出土の土偶のように)身体を意図的に欠損させた形で当時のゴミ捨て場などから見つかっていることなどから、人の形をとったものを壊し投棄することに何かしらのまじない的意味があったのではと考えられている。アルなんとかさんは発言はともかくゴミ捨て場に捨てるという土偶の扱いについては全く間違っていない。
一説として、縄文時代の原始的な祭儀では破壊はその後の再生を導き豊穣や多産につながると捉えられていたというものがある。そうした目線でドグ子の土偶ビキニアーマーの造形を眺めると、人の形をした土偶が一旦バラバラにされて中から新しいうら若き乙女が誕生してきた瞬間の図に見えなくもない。

アーマー部分がバラバラにされた土偶のパーツに見えなくもない
遮光器土偶の腰の部分を意図的に尖らせたデザインは、全世界的に見られる原始信仰であるところの地母神を想起させる安産型のデザインであると言えるが、それとドグ子の痩せ型モデル体型との対比も象徴的だ。縄文時代の価値観における性的アピールと現代の性的アピールとの間には埋めがたい断絶があり、ドグ子が現代に顕現するにあたり旧形態の”破壊”を伴わなければならなかった理由が良くわかる。ドグ子自体は性に無知なものとして生まれ段々と知識をつけていくというこういったゲームに典型的な都合の良い無知キャラ設定なのだが、初めての”ほんばん”を終えてすぐに子供を作ることを望むようになる貪欲さは彼女のパーソナリティが豊穣・多産の価値観を下敷きとしていることの証左であるだろう。
土偶の殻を破って飛び出した新生ドグ子だが、身体の中心にあってなまめかしく描かれているのが”臍”であるというのも示唆的だ。臍はへその緒を通じて胎児とつながり、新生ドグ子の身体もいずれまた破られるべき殻であると気付かされる。この3世代を立体的に表現したデザインを見たときに私の頭によぎったのが、山梨県北杜市で出土した通称「出産文土器」とも呼ばれる縄文時代中期の顔面把手付深鉢形土器である(出産文土器の画像については、縄文土器について真面目に学術的に語っているページにウチのような有害サイトからリンク貼って驚かせたくないので各自ググってたも。代わりに出産文土器の写真を表紙に使った中沢新一『精霊の王』のリンクを貼ってお茶を濁しておく。本の内容も日本の古層の信仰を知る入門としては面白いドキュメンタリーだ)。
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顔面把手付深鉢形土器というのは、土器上部の把手部分に人の顔があしらわれた一分類として成立するくらいポピュラーなスタイルなのだが、出産文土器の土器中央部から別の顔が飛び出しているデザインは女性の出産の瞬間と女体から飛び出す胎児を表していると言われる。ANGELICA ASTERの世界にただよう無常感として今居る世界は”再生”のための”破壊”の途上にすぎないというものがあると思うが、殻を破って出てきたドグ子自身がまた次の新たの命の誕生のために破られる殻であるという暗喩はそうした世界観の表現としてあまりに雄弁と言えるのではないだろうか。正直他のキャラがいなくなってドグ子だけが残ったとしても看板背負えるくらいにはゲームのテーマと合致している。
余談:ドグ子はなぜフグ調理師免許を持っているのか
以上、ドグ子のデザインがただの性消費されるべきデザインではなく、象徴的な意味を持ったデザインであるということについてつらつらと語ってきた。ドグ子かわいいよドグ子。デザインについてはそれ以外にもドグ子が背負っているスラスターがまさに縄文土器っぽかったりと語るべき秀逸な点が多い。
だが折角ここでドグ子というキャラの読み解きを縄文時代と絡めて行なっているということもあり、ドグ子のガチャピックアップ期間が終了した次のイベントの会話で判明した彼女がフグ調理師免許を持っているという謎設定についても理由を考察してみたい。

ドグ子はフグ調理師免許もってまーす。
「縄文時代 フグ 漫画」等のキーワードで検索するとある特定世代以降の幼少期にトラウマを植え付けた学習漫画として、小学館の『少年少女日本の歴史』シリーズが出てくる。
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全20巻オーバーの漫画で日本の歴史を先史時代から現代に至るまで描いたシリーズなのだが、その第1巻で縄文時代が描かれており、主人公の少年と仲良くしていた一家がある夜フグの毒に当たって全滅してしまうというトラウマエピソードが描かれていたのだ。
学習漫画であるので当然このエピソードにも元ネタが存在し、下敷きとされているのは1926年に千葉県市川市で発見された縄文時代中期〜後期にかけての遺跡、姥山貝塚から見つかった竪穴住居の中で折り重なって死んだ成人男性2名、成人女性2名、子供1名の人骨である。建物跡からフグの骨が発見されたということもあり、この住居で暮らす家族はかわいそうにフグの毒に当たって全滅してしまったのだ、現代と違って食べられる魚に詳しくなかった未開時代の生活は過酷だったね、、という現代日本に生まれついたことについて子供が若干の優越感に浸ることのできるエピソードだった。
ところがこのような印象的エピソードが、現在の版ではごっそり削除されてしまっているらしい。漫画に限らず歴史の学習教材は過去の説が否定されることで年を経るごとにアップデート/ダウングレードされていくものだが、削除された理由はそもそもフグ中毒死が根拠の弱い状況証拠だけの説であったのに対して、フグの骨自体は縄文時代の貝塚のそこかしこから発見されており当時の主要な食物であった、すなわち縄文人が毒抜きの方法を熟知していたかあるいは当時のフグに毒が無かった可能性があるということ(フグは生体濃縮で毒を獲得するため餌の内容によっては無毒であった可能性は十分ありうる)、住居の中の人骨という発掘状況が家族を襲った悲劇的事件の現場図というわけでもなく、廃屋墓と呼ばれる使われなくなった竪穴住居を墓として再利用する東京湾沿岸によく見られる埋葬方法だった可能性の方が高いこと、などが挙げられるだろう。ちなみに2020年から行われたDNA調査で見つかった5名の人骨の成人女性と子供の間に血縁関係が無いことが判明するというオチもあったようだ。
ということで、改版される前の『少年少女日本の歴史』などを読んで育ってきた特定の世代の中にある縄文人=フグ毒に当たって死ぬイメージに対するアンチテーゼとしてドグ子に”食べられる魚に詳しい”、”フグ調理師免許を持っている”などの属性が付与されているのかもしれない。なんなら当初はフグ毒に弱いキャラという構想だったのが「ほえー今は全く逆なんやねー」とあえてへいちゃらなキャラ付けをされているのかもしれない。
ドグ子についてはキャラ実装以来ギミック付きのエンドコンテンツで性能的に引っ張り出される機会が多かったり、ストーリー会話の気の抜けたボケ役として引っ張り出されることが多かったり、服装の肌色が多かったりと今後のさらなる活躍が期待されるキャラである。願わくば某前作のように関係性などの伏線がろくに回収されぬままゲームがサ終してしまうことないよう、女神アスタルに祈りを捧げたいものだ。

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